分科会

分科会

本学会においての分科会の活動は、第7回学術大会より具体的に動き始めました。

分科会の目的は、専門性や研究性を高めることはもちろんですが、年に一度の大会への参加だけでは希薄になりがちな会員同士の交流を、より密なものとして頂くことに主眼を置き、会員一人ひとりの所属感を高めることを重視しております。

仏教と心理学という大変広い分野を扱う学会という性格上、会員の方々の関心領域は多岐に渡ります。分科会活動で、ご自身の興味・関心領域を掘り下げる良い機会としていただけたらと思います。

深層心理(唯識、アビダンマ、精神分析、分析心理学等)

佐久間 秀範

森岡 正芳

今回の分科会では仏教の場合と西洋の心理学の場合とでどのような歴史的推移でこころのあり方を扱ってきたかについて問い直すことから初めたいと思います。一般に唯識思想とフロイト・ユングの心理学とが「深層心理」という言葉で括られることがあります。しかし例えばアーラヤ識という概念ができあがる過程と集合的無意識ができあがる過程とを見ただけでも、文化的思想的に大きな違いがあります。そこで共通する部分と異なる部分とを洗い出し、仏教学と心理学との学問分野の間にある垣根を見つめて行くことで、両者の間の有意義な研究が進められるような基盤づくりができればと考えています。今回の分科会のリーダーをたまたま佐久間(筑波大学・人文社会系)が担当することになりましたが、今後は複数の方々で運営できるようにして行きたいと思います。

瞑想(実践、脳科学、禅、マインドフルネス等)

平原 憲道

藤野 正寛

「瞑想」分科会では、禅や密教等の伝統的な瞑想実践にのみフォーカスを当てるのではなく、近年科学界でも注目を集める「マインドフルネス瞑想」などを含め、幅広く瞑想を取り巻く課題を議論の対象にすることを目指している。方法論としては、仏教瞑想を理解しその仕組みや効果を解明するために、臨床・科学・文献・実践のそれぞれの立場から知識を共有し、多面的に議論していく。欧米で先行する瞑想の医学的・認知神経科学的な研究成果も積極的に紹介していく。 

リーダーには慶應大学医学部の平原憲道(専門は医療ビッグデータ・認知科学・意思決定)、サブリーダーには京都大学大学院教育学研究科の藤野正寛(専門は認知神経心理学・ヴィパッサナー瞑想実践)が務める。参加メンバーにはぜひ多方面からの視点を積極的に提供して頂きたい。柔軟な文理融合的な視点で刺激的な議論が行えることを楽しみにしている。

仏教的ケア(スピリチュアルケア、子育て、看取り、

グリーフ、トラウマ、緩和ケアなど)

井上 ウィマラ

子育て(チャイルド・ケア)から看取り(ターミナル・ケア)やグリーフ・ケアまで、ケアは人間にとっての本質をなす重要な活動です。現代社会では、こうしたケアは医療を中心に心理や教育関係の専門職の皆さんが支援してくださるようになってきていますが、その重圧は相当なものになってきている様子です。支援者の皆さんの重圧を緩和するため、現場で燃え尽きてしまわないよう具体的な方法とビジョンを示してゆくことは、社会的な貢献になるだけではなく、仏教自体の本質をもう一度見つめ直して現代社会に再構築するための機会にもなると思います。

医療や心理療法のみならず企業研修などにも幅広く応用されていることが日本にも紹介され始めてきたマインドフルネスは、漢訳では「念」と訳されるもので、原語のsatiは思い出すこと(sarati)を意味する言葉です。経典には、マインドフルネスのトレーニングには自分を見守ること、他者を見守ること、自他を見守ることの3つの視点が大切だと記されており、律蔵には看取りを含めた看病の相互的実践が出家修行者の間で為されていたことが伝えられています。マインドフルネスの守備範囲がとても広いことは、マインドフルネスがケアの本質に深く関わっていることを示唆しているように思われます。

日本の仏教には真言、坐禅、念仏、題目など多様な修行法がありますが、どの修行においても心が対象から離れて雑念にとらわれてしまうということがあるものです。マインドフルネス()のトレーニングは、そうした雑念への対処の仕方に大切な示唆を与えてくれます。そういう意味で、日本仏教に伝わる様々な修行法を通して諸宗派のつながりを回復してゆくための基盤にもなりうると思われます。

この分科会では、マインドフルネスを中心として仏教の本質に深く広く立ち返ることを通してケアとは何かを探求し、それを仏教的なケアとして現代社会に貢献できる形で表現してゆける道を探してゆきたいと思います。

具体的には、「こんな時、どうしたらいいのかなぁ…」という困った事例について皆さんの体験智や情報を集めてゆくという形で、チャイルドケア→ターミナルケア→グリーフケア→チャイルドケアというケアの循環を生み出せるようなヴィジョンを持てるようになればよいと思っています。

宗派間連携(社会貢献等)

三輪 是法

日本仏教の特徴は、「専修化」と言われています。特化した修行によって、日本仏教は宗派性を持つようになり、それぞれ独自の信仰形態を保持してきました。その根幹には、各宗派が依拠する経典の違いがあります。

本来、仏教は人間の生老病死などの実存にかかわる問題について深く考え、克服することを実現してきました。実際、日本仏教の祖師たちは、人々の苦しみに寄り添い、安心を与えるための多くの言説を残しました。しかし、近代以降、時代の推移とともに、そうした役割が科学的専門分野に委譲されているのが現状です。いま、あらためて人間を見つめ、人間の実存について深く考え、寄り添うことは、仏教を私たちがよりよく生きるための実践方法として再生させると考えます。特に、「心」の問題に立ち返るとき、日本仏教は宗派性を越えて、さらに国や民族を越えて、人間の心のあり方と生き方の問題によい方向性を提示できるように思います。

この分科会では、宗派の違いを前提にしながらも宗派性を超越していく研究、具体的には各宗派の教義に基づく人間心理の研究はもとより、エンゲイジド・ブッディズムに見られる社会貢献や実際の布教活動などの実践を通した心理学的研究を含めて、日本仏教が持つ普遍的可能性を模索していきたいと思います。

カウンセリング、心理療法

(真宗カウンセリング、内観療法、森田療法等)

千石 真理

黒木 賢一

リーダー:心身めざめ内観センター主宰 千石真理、サブリーダー: 大阪経済大学人間科学部 黒木賢一 

目標:仏教には「心身一如」という概念があるが、「カウンセリング・心理療法」分科会では、主に日本生まれの心理療法と呼吸法や気などの身体的実践を通した東洋的アプローチの心理療法に焦点を当てる。

分科会メンバーは、自らの心の内を観じ、身体(呼吸、動作、気など)活動の実践を体感しながら、心身を含んだ東洋の心理療法と西洋の心理療法の違いや共通する点など、議論を深めるとともに、文献、症例や研究などを紹介しながら、クライアントにより有効な手法を提供できるよう、研鑽してゆく。 

分科会メンバーへの期待:カウンセリング・心理療法を提供する側としてのセルフケアとして、メンバー自身が自己発見としての内観や身体の感覚を楽しみつつ、分科会で新たに発見、構築したことを実践に生かし、社会貢献へと繋げていくことを期待しています。

       

仏教と心理学の運動史(人物史、思想史、実践史)

葛西 賢太

加藤 博己

「運動史」分科会では、「仏教と心理学との対話」に尽力した人々の仕事や人生に触れ、仏教心理学の歴史をあきらかにしていくことを目指しています。 

論文や図書、その他の文献をひとつひとつあたっていく地道な研究作業が基盤になりますが、同時に啓発のため、仏教心理学史を学ぶセミナーや講演などの実施を考えております。 

当面のリーダーは、葛西賢太(宗教情報センター/上智大学グリーフケア研究所)と、加藤博己(駒澤大学文学部)が担当させていただきますが、研究(成果の発表も)・運営(連絡や行事運営のボランティア)・一般参加のいずれも歓迎し、有意義な時間を定期的に持ちたいと考えております。

教育(仏教教育、道徳・倫理)

ケネス 田中

1.目的や活動内容

・ 心理学の理論や発見を仏教教育に導入。例:論理療法をもって仏教教義を説く。

・ 仏教の価値観(慈悲、無常観、無我観等)を心理療法などに導入する。

・ 以上のような接点が見られる既存方法(例:内観療法、森田療法、ゲシュタルト療法、アサジオリ等)を分析し、新しい方法の構築への参考として活かす。

・ 未だあまり知られていない教育方法を検索、発掘する。

・ 全く新しい教育方法を構築する。 

2.リーダー&サブリーダーの氏名、簡単な紹介

リーダー:ケネス田中(武蔵野大学教授、専門:浄土教、アメリカ仏教)

サブリーダー:募集中 

3.分科会メンバーへの期待

心理学と仏教の両領域の英知を採用し、お互いの理解を促進させ、また、社会の諸問題の解決に貢献できる教育方法の充実をめざす人を求める。二十世紀に発生した心理学は、現代的な世界観や方法論を有するので、それを活かし、二五〇〇年という歴史を持つ仏教の価値観や知恵をより多くの人々に伝達することを目指したい。